月夜見
 “秋っていうのはネ”

     *TVスペシャル、グランド・ジパング ルフィ親分シリーズより

 

陽なたにいれば小汗もかくし、
まだまだ冷たいお茶が喉には嬉しい。

 でもサ あのサ
 どういうものかな、夏とは随分違うんだな。

明るい陽なたにいても、陰はやたら濃い色で。
うん、真夏もそうじゃあったけど、
何てのかな、
夏は陰も短かかっただろう?
お日様がぎんぎんに強かったからサ、
それが照らし切れない陰なんて、
家並みの軒下や足元にも、申し訳程度しか落ちてなくって。
それが今は、ちょこっとでも昼を過ぎれば、
陽はぐんと傾いてしまってのこと、
俺の低い鼻の横にも、黒々と陰の色。
空の青へと吸い込まれそうに
やたら尖ったやぐらを見上げた頬っぺをつついて。
どっかへ吹いてく風も 何でかちょびっと素っ気ないし、
梢で震える葉っぱの音も何か言いたげ。
場末の畑まで出れば、
頭の上へすかんとひらけた空が無性に呆気ないし。
そんな空の何処にいるのか、
空気をきいきい引っ掻くように鳴く鳥が、
寂しいものか、しきりと仲間を呼んでいて。

 「…………。」

何でかな、何でだろ。
今は一人でいるけれど、
町へ戻れば友達も仲間もたんといるのにな。
口うるさい上役もいるし、
兄貴ぶって喰いもんの好き嫌いを叱る奴もいるけど、
どっちも不思議と、
困ったときほど凄げぇ助けてくれるんだぜ?
夜回りに見上げる月が妙に冴える晩とかは、
行きつけのソバの屋台がちゃんと見つかるし。
なのに何でかな、何でだろ。
昨日今日と、ふっとした拍子に、
胸のここんところが、
時々 妙にしゅんとしてるんだよな。

  びょうぅぅぅう………っっと

眺めてた畑の一角、
刈りこぼしの稲穂やススキの葉が、
ざわわ・ざわさわ、大きく揺れたほどの風が吹いて。
何処の何を震わせたのか、
壊れた尺八みたいな唸り声が、低く高く鳴り響く。
ばっさと、形があったみたいな風に顔をはたかれ、
うわわって とっさに眸をつむっておれば、

 「………お? 親分じゃねぇですか。」

  あ……。

しゅんとしてた胸元が
今度は ぎゅんぐんて、つねられたみたいになる。
痛くはないけど つきつき染みて、
どこだどこだって、原因をしゃにむに探せば、
土手になってるこっちの道を見上げる格好、
少しほど低まってる畑の側にあった
お地蔵様の前にしゃがんでた まんじゅう笠が、
むくりと立ち上がって、
その下へ やたら男臭いお顔を見してくれたから。

 「   え?」

気がついたら、えいって何にもないとこへ飛び出してて。
あわわと驚いた坊様のお顔があっと言う間に間近になった。

 「ああもう。無茶をしなさるねぇ、相変わらず。」

ひょろりと細い俺なんぞ、余裕で受け止めてしまった坊様で。
笠の縁にさえ掠めぬ妙技を褒める暇もなく、
堅いばっかの胸元に、ぎゅぎゅうってしがみついてた。
ああそうだ、
この埃臭い匂いとか堅いのとか、ちょみっと久し振り。
どしました?なんて頭の上から訊いて来る、
男らしい低めの声も、何日聞いてなかったのかなぁ。


  ああそうか、
  俺ってば 坊様が足りてなかったんだな。


秋ってゆのはサ、人が恋しくなるんだって。
これから寒くなるからね、
寄り添い合う人を早く見つけなって
暖ったかい春までを一緒に過ごしなって、
風や景色がそそのかすんだって。
嘘が下手っぴな、しかもお医者の
チョッパーがゆってたから嘘じゃあない。
だからそいで、何か物足りなかったんだ、うんと。
奇遇に付きもの、
坊様の懐ろから出て来たほかほかの蒸し饅頭を頬張りながら、
一丁前のお説を述べる親分だったのへ、

 「…へぇ〜、そうなんすか。///////」

妙に声が堅くなってたところが、
何だか急にらしくなかった坊様だったけれど。


  ……秋の夕焼けに免じて
    察してあげて、ネ? ネ?(撃沈)




    〜Fine〜  12.10.19.


  *何のこっちゃなお話ですいません。
   朝晩の肌寒さに、一気に秋めいたなぁと思いましてね。
   人恋しいこの季節、
   シチューやグラタンが無性に美味しいっ。(そっちかい)


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